はじめに
慢性的な人手不足が課題となっている建設業において、機械導入やDX化を初めとした業務の効率化は最重要の取り組みといえます。
しかし、最新の設備や技術の導入には多額の費用がかかります。特に中小企業では資金確保が難しく、なかなか着手できないケースもあります。
中小企業の省力化対策を支援するため、設けられた制度が省力化補助金です。建設業との親和性も高く、ICTや重機の導入に広く利用されています。
今回の記事では、建設業における省力化補助金の利用事例や、注意点について解説します。
① はじめに——建設業と省力化補助金
省力化補助金とは、人手不足に悩む中小企業等を対象に、省力化を目的とした設備導入やシステム構築などを支援する補助金制度です。省力化補助金には「一般型」と「カタログ注文型」の2種類があります。
一般型は、個別の現場や事業内容に合わせた設備導入・システム構築を支援する制度です。一方、カタログ注文型では、あらかじめ登録された省力化製品の中から導入する製品を選びます。カタログ注文型は随時申請できますが、一般型は公募回ごとに申請を受け付けています。
一般型では、機械装置・システム構築費を必須経費として、省力化につながる設備投資などが補助対象となります。補助率は中小企業で1/2、小規模事業者などでは2/3とされ、補助上限額は従業員数に応じて750万円から最大8,000万円まで設定されています。大幅な賃上げに取り組む場合は、最大1億円まで引き上げられる場合があります。
直近では2026年5月に第6回の受付が締め切られました。2026年6月上旬時点で、次回第7回のスケジュールは以下のように公表されています。
| 公募開始日 | 2026年6月5日(金) |
| 申請受付開始日 | 2026年7月上旬(予定) |
| 公募締切日 | 2026年7月下旬(予定) |
| 採択発表日 | 後日案内 |
今回の記事では、一般型に焦点を当てて、建設業との相性や利用する際の注意点についてご紹介していきます。
② 省力化補助金と建設業の親和性

2026年3月に公表された省力化補助金一般型・第4回公募の採択結果によると、採択事業者のうち建設業は15.9%を占めました。これは、製造業の50.1%に次ぐ割合です。また、第1回から第4回までの推移を見ると、建設業の割合は11.3%、12.4%、15.5%、15.9%と増加傾向にあり、建設業でも省力化補助金の活用が広がりつつあることがうかがえます。
近年、建設業では慢性的な人手不足が課題となっています。さらに、50〜60代のベテラン層が退職を控える一方で、若手人材の確保や技術継承が十分に進まないケースもあり、今後さらに人手不足が深刻化する可能性があります。
また、時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「2024年問題」への対応も求められています。限られた人員で現場を回していくためには、従業員一人あたりの生産性向上や、重作業・危険作業の省力化が欠かせません。
こうした背景から、ICT建機や測量システム、省力化設備の導入を支援する省力化補助金は、人手不足に悩む中小規模の建設業にとって、業務改革を進めるための有効な選択肢の一つといえるでしょう。
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③第4回 建設業の採択傾向

独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表している「中小企業省力化投資補助金(一般型)第4回公募 採択決定事業者一覧」から建設業の採択傾向を見ると、以下の6つのパターンが多く見られます。
・ICT建機・ICT施工の導入
・ドローン測量・スマート測量の導入
・解体業における重機・アームロールコンテナの導入
・処理能力向上・工期短縮への訴求
・「省力化+安全性向上」「省力化+事業拡大」を組み合わせる構成
・地域インフラ、防災・減災への訴求
それぞれのパターンについて、以下で詳しく紹介します。
ICT建機・ICT施工の導入
建設業では、ICT建機やICT施工を活用した省力化が採択事例として多く見られます。
たとえば、3Dデータなどを活用して施工を支援するICT対応の油圧ショベルを導入すると、掘削位置や深さを確認しながら作業を進めやすくなります。また、バケットを傾けたり回転させたりできるチルトローテーターを使えば、重機の向きを何度も変えずに作業できます。
これにより、測量や確認作業の手間を減らし、少人数でも精度の高い施工を進めやすくなります。
採択された事業計画名の例
・【ICT・DX】「ICT建機を導入し、土木施工のDX化による売上拡大を実現する」(北幸重建株式会社・北海道)
・【ICT・人材育成】「ICT 施工導入による土木工事の省力化と人材育成で組織力強化」(株式会社MAXグループ・埼玉県)
・【ICT施工・国土強靭化】「ICT施工技術による国土強靭化推進と技術承継基盤の確立」(株式会社三六組・長野県)
ドローン測量・スマート測量の導入
ドローン測量や3Dスキャナーなどを使ったスマート測量も、建設業で活用しやすい省力化の方法です。
上空から現場を撮影・計測できるドローンを使えば、従来は人が現地に入って測量していた場所でも、短時間で広い範囲のデータを取得できます。高所や足場の悪い場所に作業員が立ち入る必要も減るため、安全性の向上にもつながります。
取得したデータは営業所や取引先とも共有しやすく、現場状況の把握や見積り、施工計画の精度向上にも役立ちます。
採択された事業計画名の例
・【ドローン測量】「ドローン測量の導入による測量業務の省力化と経営基盤強化事業」(T・E・C株式会社・北海道)
・【3Dスキャナー】「3Dスキャナー導入による測量の大幅省力化と高付加価値化」(京央測量設計株式会社・千葉県)
・【レーザードローン】「高精度レーザードローン導入による測量業務の省力化と高精度化」(有限会社栗原測量設計・山梨県)
解体業における重機・アームロールコンテナの導入
解体業では、重機やアームロールコンテナを導入する事例が見られます。解体工事は、建物を壊すだけでなく、廃材の分別や搬出、周辺環境への配慮など、多くの作業が発生する分野です。
重機を導入すれば、手作業では負担が大きい解体作業を機械化でき、作業員の身体的負担を軽減しやすくなります。また、アームロールコンテナを活用すれば、現場で発生する廃材を種類ごとに整理し、搬出しやすい状態にできます。
建物やインフラの老朽化により、今後も解体・更新工事の需要は続くと考えられます。そのため、限られた人員でも安全かつ効率的に解体工事を進められる体制づくりが、省力化のポイントになります。
採択された事業計画名の例
・【解体重機】「重機導入による、職人の解体業務負担の軽減を図り、生産性向上」(株式会社鈴木工業・宮城県)
・【アームロールコンテナ】「アームロールコンテナ増設による解体処理能力向上と工期短縮」(株式会社トウケングループ・宮城県)
・【油圧ショベル】「専用油圧ショベル導入による解体工事作業の省力化と受注の拡大」(岩本芳彰・大阪府)
処理能力向上・工期短縮への訴求
建設業では、単一の設備だけでなく、複数の設備やシステムを組み合わせて省力化を図るパターンも有効です。
たとえば解体工事では、重機による解体、廃材の分別、積み込み、コンテナ搬出が連動しています。一つの工程だけを速くしても、前後の工程が追いつかなければ、全体の工期短縮にはつながりません。
申請時には、設備ごとの効果だけでなく、導入によって現場全体の流れがどのように改善されるのかを示すことが大切です。
採択された事業計画名の例
・【処理能力向上・工期短縮】「アームロールコンテナ増設による解体処理能力向上と工期短縮」(株式会社トウケングループ・宮城県)
・【現場停止削減・工期短縮】「アームロールコンテナ増設による解体現場停止削減と工期の短縮」(株式会社STNS・宮城県)
・【短工期化】「高精度パネル製作ラインの構築による短工期化と技術レベルの向上」(株式会社加藤建設・静岡県)
「省力化+安全性向上」「省力化+事業拡大」を組み合わせる構成
建設業の採択事例では、省力化だけでなく、安全性向上や事業拡大をあわせて訴求する計画も多く見られます。
たとえば、先述の通りドローン測量は作業員の事故リスク軽減にもつながります。また、ICT建機や施工管理システムを導入すれば、少人数でも効率よく現場を回しやすくなり、対応できる工事件数の増加や元請案件への対応力向上も期待できます。
このように、補助金申請では「作業時間を削減できる」だけでなく、「安全性が高まる」「従業員の負担が減る」「受注拡大につながる」といった効果まで示すことが重要です。
採択された事業計画名の例
・【省力化+安全性向上】「ICT施工の導入による省力化と安全性向上の実現」(株式会社WEED・北海道)
・【省力化+安全性向上】「ドローン活用による省力化、安全性向上」(株式会社関原工業・広島県)
・【省力化+受注拡大】「専用油圧ショベル導入による解体工事作業の省力化と受注の拡大」(岩本芳彰・大阪府)
地域インフラ、防災・減災への訴求
採択事業計画名を見ると、「地域インフラ」や「防災・減災」への貢献を打ち出している計画も見られます。
建設業は、道路や橋梁、河川、堤防、上下水道などのインフラ整備に関わる業種です。そのため、省力化によって施工体制を強化することは、地域インフラの維持や災害に強いまちづくりとも結びつけて説明しやすいといえます。
もちろん、防災・減災に関わる事業だからといって、それだけで評価されるわけではありません。しかし、省力化の効果に加えて、地域の安全性向上やインフラ維持への貢献を整理できれば、事業計画のアピールポイントを広げやすくなります。
採択された事業計画名の例
・【地域インフラ】「地域インフラ等に貢献する効率化および省人化ICT施工体制計画」(株式会社小池重機・北海道)
・【地域インフラ】「チルトローテーター×ICTで、地域インフラを守る技術者集団へ」(株式会社千葉建設・北海道)
・【防災・減災】「ICT建機導入による施工省力化と防災・減災工事への展開」(有限会社浩栄工業・山形県)
④公式資料に見る採択事例
ここでは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表している「一般型公募(第4回)採択結果について」に掲載されている採択事例から、建設業の省力化投資におけるポイントを読み解いていきましょう。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 「一般型公募(第4回)採択結果について」
導入前の課題
この事例では、草刈り・丁張り・掘削などの工程が人力に依存していたことが課題として挙げられています。少人数体制では工期が長期化しやすく、急斜面や危険箇所での作業負担も大きい状況でした。
また、若手不足や技術者の高齢化により、技術継承が難しくなっていることも課題です。公共工事の比率を高めたいものの、土木部門の生産性が低く、事業拡大が進みにくい状況だったことが分かります。
人手不足や高齢化は、建設業界における慢性的な課題です。省力化補助金は、こうした課題の解決に向けた設備投資を後押しする制度として利用できます。
導入する設備
こうした課題に対して、ICT対応油圧ショベル、油圧フォーク、草刈り機を導入する事例が紹介されています。
単一の設備ではなく、掘削・集積・草刈りといった複数の作業に対応する設備を組み合わせている点が特徴です。建設業では、一つの工事の中にさまざまな工程が含まれます。そのため、いずれかの工程に非効率な部分があると、そこがボトルネックとなり、全体の生産性低下につながります。
工程全体を俯瞰し、省力化に必要な設備を複合的に導入することが重要です。
導入後の効果
導入後は、急斜面や危険箇所での測量・丁張り作業を機械化し、安全性を高めることが期待されています。人力に頼っていた作業を機械化することで、作業時間の短縮や身体的負担の軽減にもつながります。
また、ICT建機によって施工精度が安定すれば、熟練者に頼りすぎない作業体制を整えやすくなります。少人数でも効率よく施工できるようになることで、人手不足への対応や公共工事への対応力強化にもつながる事例といえるでしょう。
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⑤建設業が採択されるためのポイント

省力化補助金で採択を目指すには、「設備を導入したい」と説明するだけでは不十分です。現在の課題、導入する設備、導入後の効果、空いた人員や時間の活用方法、賃上げまでを一つの流れで示すことが重要です。

上記5ステップの内容と盛り込むべき情報について、以下に詳しくご紹介します。
【課題】課題を具体的に示す
まず、自社の課題を明確にします。建設業では、人手不足、高齢化、技術継承の難しさ、特定工程への人員集中などが課題になりやすいでしょう。
「人手が足りない」だけでなく、「測量に2人で半日かかっている」「草刈りに3人で1日かかっている」など、人数や時間を入れると課題の深刻さが伝わりやすくなります。
【設備投資】課題解決につながる設備を説明する
次に、その課題を解決するために導入する設備を示します。ICT建機、ドローン、3Dスキャナー、施工管理システム、アームロールコンテナなど、設備名を具体的に挙げます。
あわせて、その設備によってどの作業がどう変わるのかも説明しましょう。単一設備だけでなく、測量・施工・搬出・記録など、工程全体を見て設備を組み合わせる視点も有効です。
【効果】導入後の効果を数字で示す
設備導入後に、どの工程がどれだけ省力化されるのかを示します。「3人で行っていた作業を1人で対応できる」「測量時間を8時間から3時間に短縮する」など、数字を入れると効果が伝わりやすくなります。
作業時間の短縮だけでなく、安全性向上、作業負担の軽減、施工精度の向上、手戻りの削減なども省力化の効果に含めます。
【再配分】空いた人員や時間の使い道を示す
省力化によって生まれた人員や時間を、どのように活用するのかも重要です。
たとえば、空いた人員を別の現場に回す、施工管理や営業活動に充てる、公共工事への対応力を高めるなどの展開が考えられます。「省力化によって受注数を増やす」「対応できる現場数を増やす」といった形で説明すると、事業成長とのつながりが明確になります。
【賃上げ】賃上げにつながる流れを説明する
省力化補助金では、生産性向上や賃上げも重視されています。そのため、設備導入によって作業効率が上がり、売上や利益が改善し、その成果を従業員に還元する流れを示すことが大切です。
「年率3.5%の賃上げを目指す」「生産性向上による利益増を従業員に還元する」など、できるだけ具体的に書くとよいでしょう。
自社で説明できる計画にすることが重要
省力化補助金の目的は、補助金を受け取ることそのものではありません。自社の課題を把握し、必要な設備を導入し、生産性向上や賃上げにつなげることが本来の目的です。
外部支援者に計画策定を任せる場合でも、内容を十分に理解しないまま進めるのは避けるべきです。自社の現場に合わない設備投資になれば、採択後に期待した効果が出ず、投資効率が悪くなる可能性があります。
申請時には「なぜその設備が必要なのか」「導入後にどの工程が変わるのか」「省力化した時間や人員をどう活用するのか」を、自社でも説明できる状態にしておきましょう。
建設業の補助金申請では、現場の課題や作業内容、設備の役割を踏まえた計画づくりが欠かせません。建設業に詳しい支援者に相談することで、自社の実情に合った設備投資や、省力化効果の示し方を整理しやすくなります。
まとめ

省力化投資は、人手不足の解消に役立つだけでなく、生産性向上や企業の持続的な成長にもつながる重要な取り組みです。こうした投資を後押しする制度として、省力化補助金は有効な選択肢となります。
ただし、単にICT化を進める、新しい重機を導入するといった説明だけでは、事業計画の説得力が十分に伝わらない場合があります。自社の課題を明確にし、設備導入によってどの工程がどのように改善されるのか、さらに生産性向上や賃上げにどうつながるのかを、数値を交えて整理することが重要です。
外部の支援機関に申請書作成のサポートを依頼することも可能ですが、建設業への理解が十分でない場合、自社の実情に合わない計画になってしまう可能性があります。
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