第1章 建設業界の現実と変革の必要性
― 人手不足・高齢化・コスト上昇という三重苦 ―
日本の建設業界は、いま構造的な転換期にあります。技能労働者の平均年齢は50歳を超え、若年層の入職者は30年前の半分以下。また資材価格の高騰や労務費の上昇が経営を圧迫し、利益率の低下に歯止めがかかりません。特に建設資材では1年前との価格を比較すると、鋼材:3割~5.5割程度、木材:4割~8.5割程度高騰しており、利益率を圧迫する深刻な問題となっております。主要な建設資材の価格高騰動向を以下に記載しました。

参考資料:国土交通省(最近の建設業を巡る状況について【報告】)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001487405.pdf
また地方の中小建設企業では、以下のような課題が深刻化しています。
- 現場作業員の高齢化と技能継承の停滞
- 元請け構造に依存する収益体質
- 若手人材の採用難・定着率の低下
- 外的要因によるコスト変動リスク
これらの問題を乗り越えるには、従来の枠組みを超えた「新しい収益の柱」を築く必要があります。この新たな収益の柱を築く際に多角化の検討があると思いますが、その挑戦を支援する制度として注目されているのが、新事業進出補助金です。
第2章 新事業進出補助金とは
中小企業の第二の柱づくりを後押しする制度
「新事業進出補助金」は、中小企業や小規模事業者が自社の人材・技術・設備・ネットワークなどの経営資源を活用し、新たな分野や市場に挑戦する取組を支援する制度です。本補助金の目的は企業がこれまでの延長線上にない変化の一歩を踏み出すこと、そして地域経済全体の構造転換を促すことにあります。
制度の概要
- 補助率:1/2
- 上限額:最大9,000万円
- 対象経費:設備・建物改修・システム構築・広報・人件費・専門家費など
本補助金の基本要件
(1)新事業進出要件
「新事業進出指針」に示す「新事業進出」の定義に該当する事業であること。
※新事業進出の定義は、以下に記載
【新事業進出の定義】
ア.新事業進出とは
中小企業が行う新たな製品・サービスの製造または提供であって、それが「これまで扱っていなかった新しい市場」に属する取組を指す。つまり、企業にとって“新しいモノ × 新しい顧客層”を対象とした事業であることが必要。
イ.該当要件(3つの条件をすべて満たす必要あり)
- イ-1. 製品・サービスの新規性要件
→ その企業にとって、新しい技術・機能・提供形態をもつ製品やサービスであること。 - イ-2. 市場の新規性要件
→ 既存事業とは異なる市場(=新たなニーズ・属性・業種・行動特性を持つ顧客層)を対象とすること。単なる地域拡大や同市場内のシェア拡大では該当しない。 - イ-3. 新事業売上高要件
→ 計画最終年度において、
・新事業による売上または付加価値額が、応募時の総売上高の10%以上、または付加価値額の15%以上を見込むこと。
(大規模事業者の場合は、当該事業部門の売上の10%または付加価値額の15%以上を目安とする。)
ウ.該当しない事例(主な除外項目)
- 既存製品・サービスの単なる生産量・販売量の増加
- 過去に製造・提供していたものの再開
- 製造方法を変えただけで中身が変わらない場合
- 性能差が客観的に明確でないマイナーチェンジ
- 市場が既存事業と重なる場合(既存顧客の代替)
- 既存市場の一部を対象とするに過ぎない場合
- 単に販売エリアや商圏が異なるだけの場合等
(2)付加価値額要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%(以下「付加価値額基準値」という。)以上増加する見込みの事業計画を策定すること。
(3)賃上げ要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げを行うこと。
- ① 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間(令和元年度を基準とし、令和2年度~令和6年度の5年間をいう。)の年平均成長率(以下 「一人当たり給与支給総額基準値」という。)以上増加させること
- ② 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を2.5%(以下 「給与支給総額基準値」という。)以上増加させること
(4)事業場内最賃水準要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること。
(5)ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表していること。
(6)金融機関要件
補助事業の実施にあたって金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていること。
上記のように新事業進出補助金では他補助金と比較すると、多様な要件がございます。したがって、補助金の検討の際は専門家への相談や十分時間的余裕を持った検討・申請が必要です。
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第3章 建設業の新分野展開にみる4つの方向性
建設業の本補助金の要件を満たした新事業進出は、一般的な多角化の考え方に当てはめると4つの方向性があると考えます。以下に代表的なフレームワークを記載し、それぞれの特徴と具体例を記載します。

図:多角化のフレームワーク(アンゾフの成長マトリクス)
① 水平型(関連技術あり × 類似市場)
= 既存の技術やノウハウを活かし、同業界内で隣接する分野に進出するタイプ。
技術的な関連性:あり(施工手法・設備・人材が共通)
市場的な新しさ:小〜中程度(顧客層は近いが用途が異なる)
例:
- 土木工事を行っていた会社が、足場工事・解体工事・外構工事に進出
- 足場建設業が、リフォームやメンテナンス事業を開始
特徴:
- 既存資源をそのまま活用できるためリスクが低い
- 比較的短期間で収益化が可能
② 垂直型(関連技術なし × 類似市場)
= 既存市場に対し、新しい技術や仕組みを導入して付加価値を高めるタイプ。
技術的な関連性:低い(新たな技術・手法を導入)
市場的な新しさ:小(既存顧客・既存業界向け)
例:
- 現場管理をデジタル化するツール(クラウド管理システム、ドローン測量、ICT施工)を開発し販売
- 建設現場における熱中症対策の栄養補給製品の開発・販売
特徴:
- 生産性・品質向上に直結するため、競争力強化に有効
③ 集中型(関連技術あり × 新市場)
= 既存技術を活かし、異業種・新しい顧客層へ参入するタイプ。
技術的な関連性:あり(建設技術・教育ノウハウなどを活用)
市場的な新しさ:高い(顧客層が異なる)
例:
- 建設会社が外国人技能実習生向けの講習事業を開始
- 電気工事業が太陽光発電システム・5G基地局設置工事へ参入
特徴:
- 自社の強み(施工力・安全教育力)を転用して、新しい市場を創造
- 新たな顧客層(教育機関・組合・企業など)との関係構築が必要
今回の4,5章の会社のケースがこの型に該当。
※4,5章で詳しく解説。
④ コングロマリット型(関連技術なし × 新市場)
= 新しい技術を取り入れ、まったく別の市場を開拓するタイプ。
技術的な関連性:低い(新分野・新技術の導入)
市場的な新しさ:高い(対象市場が全く異なる)
例:
- 建設会社が不動産業を開始
- 建設会社が飲食店事業に参入
特徴:
- 事業転換レベルの挑戦であり、最も高リスク・高リターン
- 一方で事業のリスク分散には最適
→市場や技術が異なる為、既存建設事業の外部環境が悪化しても新規事業には関連しない
まとめ:建設業の進化パターンを見極める
| 型 | 技術の関連性 | 市場の新規性 | リスク | 代表事例 |
|---|---|---|---|---|
| 水平型 | あり | 低 | 低 | 外構・解体など同業界拡張 |
| 垂直型 | なし | 低 | 中 | ICT施工・DX導入 |
| 集中型 | あり | 高 | 中 | 教育・人材育成分野 |
| 集成型 | なし | 高 | 高 | 飲食事業 |
このように、「既存/新規」ではなく、関連の有無×市場の新しさで捉えることで、自社の強みをどう活かすか、補助金でどの型を狙うかが明確になります。
第4章 補助金活用事例①:総合建設業(東北地方)

― 外国人技能者教育という新市場に挑んだ企業 ―
同社は、総合建設業を展開する中堅企業です。鳶工事・土工・解体・塗装などを幅広く手掛け、地域の主要工事に多数関与してきました。しかし、資材価格の高騰や下請け単価の低下により利益率が低迷。技能労働者の高齢化も進み、人材確保が急務となっていました。
そうした背景のもと、A社が新たに着手したのが「外国人技能者向けの建設講習事業」です。これは、外国人技能実習生が日本入国後に受ける法定講習や各種資格取得を、建設業に特化したカリキュラムで一体的に支援するモデルです。
講習内容は、日本語・安全教育・建設機械特別教育などを中心に構成。加えて、生活支援・通訳サポートまでワンストップで提供できる仕組みを構築しました。
自社の遊休施設を活用し、補助金を利用して150名規模の研修センターに改修。さらにデジタル教材とオンライン講習を導入し、遠隔地域からも受講できる体制を整えました。
この取組により、A社は「建設教育拠点」として新規事業に進出し、初年度800名の受講を見込み、将来的には既存工事部門と並ぶ事業規模を目指しています。
このように「現場施工力 → 教育事業化」、「建設資産 → 研修施設化」、「技能人材育成 → 収益化」という三段階の変革を通じて、「建設業×教育」という新たな事業ドメインを確立しました。また本事業は、単に経営多角化を目的としたものではなく、「人手不足」という業界共通課題に対する社会的解決策としての意義を持ちます。
補助金を活用することで、リスクを抑えつつ、中小企業でも実行可能な“現実的な事業転換”を実現した好例といえます。
第5章 補助金活用事例②:電気設備業

― 再エネで新たな収益モデルを構築 ―
同社は公共施設・住宅・工場などの電気設備工事を行う総合設備会社です。地域密着の施工・保守体制を強みとしながらも、民間工事高の減少や季節的な受注変動による売上の不安定化が経営課題となっていました。
その打開策として、B社は補助金を活用し、「太陽光発電システム設備工事」という新事業を展開。従来の電気施工技術をベースに、再生可能エネルギーと通信インフラという成長分野に参入しました。
補助金で導入したのは、新築工事関連設備やドローン、計測機器、技術者研修プログラムなどです。この事業転換により、再エネ・通信分野の受注を増加させ経営の安定化を目指しています。
また地元企業や自治体の省エネ・通信整備需要を取り込み、電気工事業から「エネルギー・通信ソリューション企業」へと変貌を遂げています。また、新たに専門チームを設置して若手技術者の採用を進めており、中長期的には新事業の売上比率を全体の25%以上に引き上げる計画です。地域の脱炭素化と通信インフラ強化という社会的意義を両立した、持続性の高いモデルとなっています。
第6章 まとめ:補助金で実現する第二の柱づくり
― 強みを活かして、地域とともに進化する建設業へ ―
今回の事例はいずれも、「既存の強みを軸に、新たな市場で価値を生み出した」点で共通しています。事例①は施工力と教育ノウハウを組み合わせ、業界の人材育成を支える立場へ。事例②は電気技術を活かし、再エネ・通信という社会課題の解決に貢献する立場へ。どちらの取組も、既存事業が外部環境の変化に左右されても、市場環境が違うため新規事業は左右されないといったメリットをを築いています。
新事業進出補助金は、こうした挑戦を後押しする強力な制度です。自社の技術・設備・人材を見直し、「本業×教育」「施工×再エネ」など、独自の掛け合わせを生み出すことができれば、地方建設業でも確実に未来は拓けます。補助金を単なる資金調達手段としてではなく、「経営を変えるための投資」として活用することこそが、これからの建設業に求められる成長戦略といえるでしょう。
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早稲田大学卒業後、大手総合商社に勤務し、
企業成長と多様な働き方の両立を支援する株式会社WellFlagsを設立
ものづくり補助金やIT補助金等の補助金申請代行の専門家として、各種補助金のコンサルタント、申請代行を実施
高い採択率を誇る補助金申請プロサポートの代表コンサルタントとしても活動中

