1. はじめに(導入)

中小企業を取り巻く環境は、ポストコロナによる需要変化や物価高、人手不足など、事業運営に影響を及ぼす要因が増えています。
こうした状況のなか、東京都では、中小企業が既存事業を見直し、事業環境の変化に対応するための取組を支援する制度として、「事業環境変化対応支援事業(一般型)」を実施しています。
本補助金は、新規事業ではなく、既存事業の“深化・発展”につながる取組を支援する点が特徴です。最大 800万円(補助率4/5)の補助が受けられ、設備投資はもちろん、商品改善、品質向上、システム導入、専門家活用、販路強化など、多様な経費に活用できる柔軟性が大きな魅力となっています。
設備投資や商品改善、販路強化など幅広い取り組みに活用でき、都内企業の経営基盤強化を後押しする制度として注目されています。
本記事では、制度の概要に加え、実際に本補助金を活用した 2つの事例を紹介します。
「既存事業をどのように磨き」「どのような成果を得たのか」など補助金活用を検討する企業にとって参考になる内容をまとめました。
2. 本補助金の概要(事業環境変化対応支援事業|一般型)
■ 目的
事業・市場環境の変化に対応し、既存事業の
深化(質の向上)
発展(拡張・販路強化)
を支援することで、中小企業の継続的な成長を促す制度です。
■ 主なポイント
- 既存事業が必須(新規事業は対象外)
- 設備投資、販路拡大、商品改善など幅広い取組が対象
- 東京都内の中小企業限定
■ 補助率・補助額
- 補助率:補助率は2/3以内
※賃金引上げ計画を策定し実施した事業者:4分の3以内(うち、小規模事業者は5分の4以内) - 補助上限:800万円
- 補助対象:都内中小企業等
■ 審査の視点
公募要領で示されている審査基準は以下の5点です。
- 発展性:既存事業の深化・発展につながる取り組みか
- 市場性:ポストコロナ前後の市場・顧客動向を踏まえた分析があるか
- 実現性:体制やスケジュールに無理がないか
- 優秀性:創意工夫や将来の展望が示されているか
- 自己分析力:自社の状況を適切に把握し、課題が整理されているか
また本事業は面接審査が実施されるため、申請者自身が事業内容を説明できることも重要です。
本補助金の詳細な解説は以下リンクでも解説しています:
【2025年最新】東京都「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業」最大800万円で経営基盤を強化する方法を徹底解説
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3. 事例紹介
ここからは、本補助金を活用して既存事業を強化した 2つの企業事例を紹介します。
食品製造業とロボティクス支援企業という異なる業種ですが、どちらも「既存事業の強みを伸ばす」という点で共通しています。
3-1. 事例①|アイスクリームの量産化・EC強化(食品・飲食業)

■ 企業概要
本事例の企業は、アイスクリームの製造・販売を展開する小規模企業です。
同社は近年、職人が手作りするアイスクリームが地域の人気ブランドとして認知され、ファン層が広がっています。素材へのこだわりと丁寧な製法が高く評価され、口コミを中心に支持が広がったことで、商品の受注数が増加していました。
■ 既存事業の課題
手作りアイスは人気こそ高いものの、生産体制は長らく職人による手作業に依存していたため、一定以上の生産量を確保できず、需要の増加に製造能力が追いつかない状態にありました。
また、手作りならではの“個性”が商品の魅力ではあるものの、一方で仕込み工程や温度管理などで微妙な差が生まれ、品質のばらつきが発生しやすい点も課題でした。
さらに販売チャネルは主に店頭販売が中心であり、ブランド人気に対して販路が十分に拡大できず、ECや法人向け販売に踏み出しにくい状況が続いていました。
こうした背景から、人気が高まるほどに「生産能力の不足」や「販路制約」が経営課題として浮き彫りになり、
消費者の需要に柔軟に対応できないという壁に直面していたのです。
(課題の整理)
- 手作業中心で生産能力が小さい
- 人による品質のばらつきが発生しやすい
- 店舗中心の販売体制で、ECや法人販売が広げにくい
■ 本補助金を活用した取組
この課題を改善し、アイスクリームの製造・販売事業を次のステージに押し上げるため、同社は本補助金を活用して量産化と品質安定化のための設備導入に踏み切りました。
導入設備は以下の通りで、いずれも生産性向上と品質安定化に直結する重要な要素でした。
- 製造工程一体型マシン(加熱・殺菌・攪拌・冷却を一台で処理)
- 急速冷凍設備(風味を損なわずに鮮度を保つ)
- 自動充填機(手作業のボトルネックを解消)
- 大型ミキサー・冷蔵設備(安定した仕込み容量の確保)
これらの設備により、それまで職人が担っていた工程の一部を機械化することで、
品質を維持しながらも生産能力を大幅に向上させることが可能になりました。
また、急速冷凍の導入により賞味期限や保存性が向上し、遠方販売・業務用販売など、広域販路への対応力が格段に高まっています。
■ 効果
設備導入後、同社では事業展開の幅が大きく広がりました。
とくに、オンライン化・法人化の潮流が進む食品分野では、商品品質を安定的に提供できる企業は競争力が高く、事業モデルそのものが強化されたと言えます。
効果として現れた主な変化は以下の通りです。
- EC販売を本格化 → 製造・冷凍・物流体制が整い、全国販売が実現
- 卸売・業務用販売の新規開拓 → 小売店・飲食店からの引き合いが増加見込み
- 法人向け福利厚生サービスの開始 → 冷凍庫設置型の定額サービスに発展
これにより、企業の強みである“職人品質”を守りながら、
「売れる仕組み」が事業全体として整備され、収益の柱が複数化したことが大きな成果でした。
■ 事例のポイント
この企業の成功ポイントは、手作りアイスという“強み”を軸に、
品質と生産性の両立を図る形で設備投資を行ったことにあります。
- 職人技 × 設備投資でブランド価値を維持
- EC・法人販売など販路拡大を実現
- 「既存事業の深化」に補助金を活かす典型例
食品製造事業者にとっては、非常に応用しやすい取組内容と言えるでしょう。
3-2. 事例②|ロボット導入支援企業のデモシステム強化(ロボティクス)

■ 企業概要
本事例の企業は、ロボット導入支援およびロボティクス教育事業を展開しており、
中小製造業が抱える“人手不足”や“自動化に踏み出せない”という課題解決を得意としています。
とくに「低価格・短納期・使いやすいロボットパッケージ」の提供を強みとし、現場目線のロボット導入支援を行ってきました。
■ 既存事業の課題
ロボット導入支援においては、製品そのものの性能以上に「デモの説得力」が受注を大きく左右します。顧客が実際の動作を見て、「自社現場でも使える」と納得できることが極めて重要なのです。
しかし同社が保有するデモ機は機能が限定的で、以下のような課題がありました:
- 実際の現場で求められる多品種・高精度・重量物の仕分けを再現しきれない
- ラインナップの幅が狭く、本来対応できる案件でも提案が難しい
- デモの説得力不足から受注機会を逃すケースが発生
結果として、企業としてのポテンシャルに対し、受注率が思うように伸びない状態が続いていました。ロボティクス分野の企業にとって、これは「事業成長のボトルネック」と言える深刻な課題です。
■ 本補助金を活用した取組
課題を克服し、提案力と受注率を高めるため、同社は本補助金を活用して
中小製造業でニーズの高い“仕分け工程”に特化したデモシステムを新規構築しました。
導入した構成要素は以下の通りです:
- 高精度カメラ・センサー(微細な形状や向きの判別を実現)
- 多品種・重量物に対応したロボットアーム
- 制御装置(PLC)(誤差が少ない動作制御)
- 高精度判別システム(従来難しかった複雑なワークの仕分けが可能に)
これにより、中小製造業が抱える
「人手による仕分け作業の負担を減らしたい」という課題に対し、
実際の動作を“見せて説明できる”体制が整いました。
■ 効果
デモライン強化後、同社の営業活動と事業展開には大きな変化が生まれました。
- ショールームの実演幅が大幅に拡大し、提案の説得力が向上
- これまで対象外だった案件にも対応でき、高価格帯パッケージの販売機会が増加見込み
- 導入後の利用研修や教育サービスとのクロスセルが進み、顧客単価が上昇見込み
特に、「実際に見て納得したうえで購入したい」という中小製造業の特性と非常に相性がよく、デモ機の投資が売上そのものに直結することが見込まれています。
■ 事例のポイント
この企業の成功ポイントは、弱みとなっていた“デモ力”に対し、
設備投資で具体的に改善策を講じた点にあります。
- 中小製造業特化という独自ポジションをさらに強化
- デモ設備の刷新により、営業力と受注率が向上見込み
- 教育事業とのシナジーにより、事業全体の収益構造を改善
ロボティクス企業が補助金を活用する上で、非常に再現性の高い成功パターンとなっています。
4. まとめ
本補助金は、新規事業ではなく、
既存事業の再構築・強化に特化した制度です。
今回紹介した2事例に共通しているポイントは次の通りです。
■ 成功した企業が共通して行ったこと
- 既存事業の棚卸し(強み・課題の明確化)
- 課題を改善するための設備投資を選定
- 導入後に何が変わるのかを“具体的に”構想する
- 終了後の事業展開まで見据えたストーリー設計
補助金は「買いたい設備を買うための資金」ではなく、
“事業を伸ばすための投資”を後押しする制度です。
自社の課題整理と将来の成長戦略が明確であるほど、採択につながりやすくなります。
本記事が申請を検討する事業者様の参考になれば幸いです。
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早稲田大学卒業後、大手総合商社に勤務し、
企業成長と多様な働き方の両立を支援する株式会社WellFlagsを設立
ものづくり補助金やIT補助金等の補助金申請代行の専門家として、各種補助金のコンサルタント、申請代行を実施
高い採択率を誇る補助金申請プロサポートの代表コンサルタントとしても活動中

